世界鍼灸学術連合会(WFAS)の学術大会に参加しての感想

2016年11月、世界鍼灸学会連合会学術大会が日本では23年ぶりに開催され、それに参加させて頂き、有意義な二日間を過ごすことが出来ましたことを深く感謝致します。これだけの盛大な学術大会を開催するに当たって、運営委員、実行委員や大勢の方々のご尽力の賜物であると実感致しました。「美しき鍼灸」を大会テーマに様々な講演や演題発表、実技供覧、市民公開講座、パネル展示、など沢山のプログラムが用意されていて、視聴する時間が足りないくらいでした。

 普段は自分の治療室と所属する学術団体の中だけで、自分自身は日本伝統鍼灸の為に正しい道を歩いていると自負していても、古典的な立場や現代医学の立場など様々な立場の治療法が存在する現代日本の鍼灸界、そして世界の鍼灸の動向など全く知らないのでは井の中の蛙になってしまいます。このような学術大会に参加させて頂くことによって自分自身が伝承している鍼灸の方向性、意味、立ち位置を確認することは非常に大事なことであると思います。またそれぞれの団体がそれぞれの理論や技術で鍼灸を深めていくことは大事なことであることは言うまでもないが鍼灸界内だけで理解しあっているだけでは不十分だと考えます。鍼灸の治療対象となるのはほとんど鍼灸界以外の人であり、研究を理解して欲しい人々も多くが他の分野の研究者となります。それらの鍼灸界に属さない人にも鍼灸を理解して貰うにはこれまで以上にグローバルな視点が必要になってくると思います。そのためには日本鍼灸界のみならず世界の鍼灸界と連携していかなければならないと考えます。そういう意味で世界の様々な鍼灸が一同に会するこのような大きな学術大会の存在意味は非常に重要であると考えます。

タイやカンボジア、ミャンマー、モンゴル、チベット、インドでは「伝統医療」が保護、尊重されていて、その延長上に鍼灸も受け入れられています。アジアは「伝統医療」を民族、国家の文化的アイディンティティやナショナリズムから認知する伝統主義です。欧米はエビデンスがあれば、その医療を認知する合理主義です。しかし日本はそのどちらでもなく「鍼灸は日本文化が生んだ伝統医療」だと考えて保護育成する政策はしておりません。私たち鍼灸師にも危機感が足りないのかもしれません。今回のこのような催しに国内からも、海外からももっと多くの方が参加して頂きたいと思いました。それぞれの団体の中での技術的なところはずいぶんと進化してきていると思いますが、研究や理論化はあまり進んでいないような気がします。一部は良くなってもそれを広げる努力をしないと何も変わっていかないどころか萎んでいく可能性があります。教育機関は国家試験の予備校となってしまい、日本の伝統鍼灸を守るという様な目的は持っていないし、個人的な能力をあてにしても限度があると思います。私たちが一丸となって技術をいかにして広めていくか、学問をいかにして進化させるかを考えていかなければいけない時にさしかかっていると思います。

日本鍼灸の多様性の中でそれぞれの違いを超えて一歩でも前進していかなければならないと感じます。その意味で今回の学術大会は種が蒔かれたと思います。そしてそれに水をやって育て上げるのは私たち個人個人の、またそれぞれの団体の使命であると思います。そのような気持ちを新たに強化させて頂いた今回の学術大会であったと思います。

 

         副事務局長     今氏 崇人